(0) 定義: 主体とは何か
定義:主体とは「ものごとに変化を生み出す力の源泉」である
「主体性がある」とは、ものごとに変化を与える性質があるということである。
「主体的である」とは、ものごとに変化を与えようとする振る舞いをしているということである。
主体というのはエネルギーの流れでありエネルギーの固まりである。
主体はいろんなものに宿る。
例)
サービス主体:
(1) サービス人格に支配的影響を与える力の源泉(主体)
(2) サービスを擬人化した主体
プロダクト主体:
(1) プロダクト人格に支配的影響を与える力の源泉(主体)
(2) プロダクトを擬人化した主体
組織主体:
(1) 組織人格に支配的影響を与える力の源泉(主体)
(2) 組織を擬人化した主体
事業主体:
(1) 組織人格に支配的影響を与える力の源泉(主体)
(2) 組織を擬人化した主体
また、「ものごとに変化を与える力の源泉」の表現を裏返すと、「ものごとを変化から維持しようとする力の源泉」も主体である。
主体は主体であり続けようとする。
(1) 主体の図形表現
主体の平面表記:
基本形は一点を中心とした渦としてエネルギーの流れを表現する。
「一点を中心とした渦」とするのは、大抵の単純な主体モデルが「一点が中心」となり、一旦そう表現するのが無難だから程度に理解してくれればよい。
あとから「渦ではない主体」をいくつか紹介するが、主体はエネルギーの流れであり、それぞれの主体の性質に応じた表現をしてくれればよい。
主体の立体表記:
主体エネルギーのポテンシャル分布。「外に平らで中心が尖った図」を書く。
主体の実体としての「人」を省略し、図を記号的に使ってもよい。
主体記号を使って世の中を眺め直す。
社会活動。
世の中にはいろんな人がいて、いろんなものがあって、
なんかみんなやりそうだし、でもやらなそうだし、どっちだろう。
主体記号を被せる。
「主体とはものごとに変化を与える力の源泉」であり、なにかは何かのある場所で起きる。
主体記号だけ残したもの。
これは「場のエネルギーの流れ」になる。
なにかは何かが起こりそうな場所で起きる。
主体とは「変化を与える力の源泉」であり、必ずしも「人の形態」を取っているとは限らない。
例えばプロダクト主体などはプロダクトのある場に PdM はいないが、往々にプロダクト主体には PdM の思想が転写されている。
場のエネルギー分布にゆがみを与えるものは人でなくとも主体と捉えることが可能である。
(世の中一般的な定義感覚においてはゴミ袋に「主体性がある」とは言わないが、くさいゴミ袋は空間をゆがめて人の動きを変えるのでここでは主体として扱う)
(2) 総体
定義:「総体」とは、複数の主体の集合により構成される全体を表現する主体である
総体全体を一つの主体とみなせば、総体は主体の一種である。
そもそも、主体もまた一般には総体である。
主体はそれ自身が総体であり、総体は主体の一種である。
(3) 四角い主体
(1)では主体の基本形は 1 点を中心とした渦であるという話をしたが、それは主体が自然に存在する場合の形状である。
この自然的な主体を「丸い主体」としよう。
対して「四角い主体」はエネルギーの形状を規格化し、空間的な充填を計画的に実施するために加工された「人工的な」主体形態である。
世の中の一般的な定義感覚においては、マニュアルに沿って決められた仕事を決められたとおりにやり続けることを「主体性がある」とは言わないが、仕事の状態を変化させているのでこれも主体の一種と捉える。
集積しやすい形に形状が規格化されており、大量の人をシンプルなマネジメントで扱う際によく使われる。
(4) 流れ
「流れ」も代表的な主体の形態である。
場のエネルギーを主線方向に移動する。
なお、主線は一直線とは限らない。曲がっていることもある。
(5) 主体の因数分解
(2)の総体の節で「主体は一般に主体が合成された総体である」という話をした通り、主体というのは一般に複数の主体が合成されてできている。
「A さんは面白いけど怖い」というのは「面白い A さん」と「怖い A さん」に分解可能である。
一旦の大雑把な理解として「主体は因数分解したり合成したりすることが可能である」程度で捉えていれば OK。
(6) 主体の素因子分解
主体をより概念的に取り扱ううえで、より根本的に「主体の状態」を分解する。
素因子は主体の性質を記述する概念であり、一般に素因子自体は主体ではない。
後述する「状態保存則」を論ずる際の比較単位になる。
(0) 配置
「それ」がどこに存在するのか。
主体とその主体が存在する環境空間上の相対関係を示す概念。
主体を渦概念として記述する場合は「点」であり「座標」だが、流れの場合は主線を指すので必ずしも「点」というわけではない。
(1) エネルギー
主体の持つエネルギー。もしくは主体を構成するのに必要なエネルギー。
熱そのものでもあり、熱が転化されたものでもある。
エネルギーは主体が持つ熱量であると同時に、主体が主体となっていく過程での原資である。
すなわちエネルギーが転化されて後述の「状態量」や「構造量」を獲得したり、あるいはよりよい「位置」の獲得に費やされる。
主体を論ずる際のエネルギーは、一般にはなにかの前提を決めた上での相対量である。
なぜなら状態量や構造が異なる場合、仮に現在状態でのエネルギー形態としての熱量が同じだったとしても、状態の差分を埋めるための行動をとる場合、構造化にエネルギーが必要になるからである。
(2) 状態数
概念としては主体を「総体」として捉えたときに、その総体に含まれる主体数である。
例えば「智」と「仁」と「勇」を併せ持つ人は、それらの主体を分離抽出して「3つの主体」に分けることができる。 「状態数」は先ほど出てきた「主体の因数分解」と等価な概念になる。
これはある総体が、内部にどの程度の主体を持っているのかを測る概念であるが、総体の項で触れたように「主体は一般には総体である」ため、どういう粒度で主体を捉えるかによって、数はいかようにでも変わる。
状態数は絶対的な数字ではなく、主体同士の比較や主体の変化に対して相対比較として使う概念になる。
(3) 構造量
総体に含まれる主体間の構造関係を示す。
構造は「空間的な幾何学構造」の場合もあれば、順序を伴う「アルゴリズム」の場合もある。
主体における構造量は、メモリーから情報を読み書きする上での「情報量」に相当する概念になる。
なお本稿では素因子分解として「配置」「エネルギー」「状態数」「構造量」と切ったが、あくまでこれらは「代表的なもの」であり、たとえば構造量をさらに「構造」と「アルゴリズム」に切るなど、他の整理もありうる。
なんにせよ、それぞれの素因子は次の「主体の状態保存則」を論ずる際の目的語になる。
(7) 主体の状態保存則
物理における「エネルギー保存則」に相当する概念。
前章の素因子一つ一つに対して適応できる。
(0) 位置の保存則
位置の保存則:
- 位置が変化する際は必ず何かしらの作用が伴う
- 何もない場所で突然何かが起きることはない
- 何もない場が突然意味を持つことはない
(1) エネルギーの保存則
エネルギーの保存則:
- 主体の変化には、必ず外部からのエネルギー移転を伴う
主体とは「ものごとに変化をもたらす力の源泉」であると同時に「ものごとの状態を維持する力の源泉」である。
主体は自身の状態を維持しようとするため、主体が変化するためには必ず外部からのエネルギーが必要である。
(2) 状態数の保存則
状態数の保存則:
- 状態数が変化する際は、必ず数変化に対応する状態数が外部から投入される
- 状態数変化が内部から自然発生することはない
- 0から1は生まれない
(3) 構造量の保存則
構造量の保存則:
- 構造量が変化する際は、相当する構造が外部から投入される
- アルゴリズムが変化する際は、相当するアルゴリズムが外部から投入される
- 新たな構造が内部から自然発生することはない
- 何かが内部で変化したとしたら、既に獲得済の構造とエネルギーの作用が新たに起きただけ
例えば「コードをリファクタリングしたら簡潔な構造になった」というのは、「コード」という主体に対し、リファクタとしてのあなたが「簡潔な構造」を持ち込んだ結果簡潔なコードになったのである。
主体の状態保存に対する重要な理解は、「主体に起きるすべての変化は主体の外から厳密な転写の結果としてもたらされる」ということである。
0から1は生まれない。
0から1に至るすべては外からもたらされる。
(8) 情報の構造結晶
ものごとが無から平凡を経てすごいものになり、最終的に環境と完全調和する過程。
複雑系内部における情報の結晶状態の遷移を示すものであり、より上位の結晶状態に遷移することで、よりものごとは高度で効率的で望ましい状態に近づいていく。
【Lv0:不活性】
LV0 のキーワード:
- 全くうまくいっていない
- 全くつながりがない
- 冷え切っている
【Lv1:不完全活性】
LV1 のキーワード
- うまく行っていない
- 全体がつながりきっていない
【Lv2:フラット状態】
LV2 のキーワード
- 平坦
- 普通
- 良くも悪くもない
- 既存の秩序
- 当たり前が当たり前の状態
【Lv3:活性状態】
LV3 のキーワード
- 試行錯誤、試行錯誤でうまくいく
- 好調
- 既存の秩序を超えたつながりができている
【Lv4:疑似調和】
LV4 のキーワード
- いいもの同士があるべくしてつながる、いいもの同士が連携すべくして連携する
- 狙った通りにうまくいく
【Lv5:超活性】
LV5 のキーワード
- 秩序の連続的な生成
- 新たなカオス
【Lv6:全調和】
LV6 のキーワード
- 既存の秩序と新たな秩序の調和
- 全体調和
偶数モードと奇数モードで挙動が異なっており、
偶数モード(0,2,4,6)は固体的な情報結晶状態で情報が同じ形に留まろうとし、奇数モード(1,3,5)は液体的な情報結晶状態で情報が常に変化しようとする。
(9) 構造結晶と主体の外観
主体の話に戻る。
主体の素因子分解の項で主体の情報的な取り扱いについての話をしたが、
主体を「情報の固まり」という捉え方をしたときに、情報結晶のモードの違いにより主体がどういう相変化をするのかについて触れる。
【Lv0:不活性主体】
主体内部の情報整合が機能していない状態。
主体としてワークしていない状態。
【Lv2:フラット主体 = 四角い主体】
ワークしているけど、かといって普通。
普通だけど、かといってワークしている。
普通だが、それ以上でもそれ以下でもない。
【Lv4:部分調和主体】
特定条件ではうまくいく。
それ以外でも完璧かというとそうではなく、それ以外のところは普通。
特定条件では完璧。
普通と完璧が共存した状態。
【Lv6:完全主体】
主体として完全。
あらゆる意味で完全にワークしている。
(10) 所有
定義:「所有」とは、ある主体が他の主体を管掌下に入れる行為である
つまり、所有は主体の上下関係を指す。
所有の概念は人だけに適用されるものではなく、例えばプロダクト P が機能 A,B,C からなるとき、プロダクト P は機能 A,B,C を有する。
所有の程度も構造結晶をゲージとして分類する。
【Lv0:無所有】
所有してない。
【Lv2:平所有】
平凡な関係性において所有している。
しかしそれ以上でもそれ以下でもない。
「持っているから何?」という類のものである。
服を持っているとか靴を持っているとかは簡単な平所有の例であるが、ここではもう少し高度な例に触れておく。
例えば「腹が減ったからコンビニに行ってパンを買う」とする。
お金を払ったらパンを買える程度に「コンビニは私の意に従ってくれる」。
しかし私がコンビニの所有者かというとそうではない。
コンビニは私以外にもお金を払えばパンを売ってくれるだろう。
あるいは電車に乗って隣町に移動しようとするとする。
電車は私が想定していた時刻通りにやってきて、想定していた通りに隣町に到着する。
電車はさも当たり前に私の意に沿った動きをしてくれているが、やはり私が電車を所有しているかというとそうではない。
電車は私がいようがいまいが時刻通りに隣町に移動する。
平所有は所有していることに対する希少性を伴わない所有概念であり、実際に所有しているものだけでなく、事実ベースで誰でも使えるものも「平所有」の概念に含まれる。
【Lv6:完全所有】
Lv4 の前に Lv6 の完全所有について先に説明する。
LV6 は文字通り所有している。
どこからどう見ても所有している。
完璧、完全に所有している。
「オーナー」そのものである。
【Lv4:疑似所有】
Lv6 との対比として Lv4 の疑似所有について説明する。
LV4 は部分的に所有している・・・ように見える。
どこからどう見ても所有しているという完璧性はない。
というか、Lv6 と比べると所有の完全性は明らかにない。
Lv4 は「厳密には所有していない」が、部分的性質において所有していると言えなくもないというものである。
(11) オーナーシップ
定義:
本来オーナーではない主体が部分的にオーナーのように振舞うこと。
所有に関する構造結晶モードの Lv4~5 に相当する。
オーナーそのものにオーナーシップがあるのは自明であり、あえてオーナーシップという概念を求めるのはオーナーではない Lv4 近傍の話である。
逆に Lv2 は明らかにオーナーシップを論じる段階にはない。
オーナーシップは所有のレベルを問う概念である。
よく「リーダーシップとオーナーシップの違いはなにか」という問いがあるが、リーダーシップとオーナーシップの違い以前に、「所有する」という概念を平所有の延長で考えていると、そもそもにオーナーシップは捉えられない。
(12) オーナーシップを問う意味
最後に、「なぜ組織はオーナーシップを問うのか」というのを説明して本稿を閉じようと思う。
前項で「オーナーシップは所有 Lv4~5 の概念」という話をしたが、組織主体には本物のオーナーである Lv6 が存在する。
Lv6 から見た主体外観を 9 項で説明したが、Lv6 の主体というのは、
- 主体として完全。
- あらゆる意味で完全にワークしている。
Lv6 から見た主体というのは、Lv6 の状態自身が「その主体の完全性」を問うており、その主体が「より完全である」とは、主体全体が「より完全に近づいていこうとする」ことを意味する。
では、「主体がより完全に近づくとはどういうことか」、そもそも「主体が完璧でないとはどういうことか」というのを Lv4 の地平から眺めてみる。
1項で主体記号を使って事象を眺める話をした。
事象全体を捉えると、「何かが起きる場所」と「何も起きない場所」がある。
Lv6 のオーナーからすると、土地全体は完璧ではない。
しかしそこは全体が均等に完璧でないわけではなく、部分的に完璧であり、部分的にはうまく行っているがもうちょっとやれば伸びそうなところがあり、もっと改善しないといけない場所があり、一旦放置でいい場所もある。
しかし、オーナーはその「完璧でない状態」に対して手が回っていない。
オーナー Lv6 はマクロにはオーナーであるが、ミクロにはオーナーシップが到底完全ではなく、放置された耕作地、改善できる耕作地がたくさんある。
というので、オーナーの手が届かない耕作地がたくさんあるので、代わりに所有する代理のオーナーが必要になる。
この「代理のオーナー」は何ができるのかというと、
「主体とは、変化をもたらす力の源泉である」
状態保存則により、主体が提供可能なアイテムは「厳密に」決定される。
なぜ「組織はオーナーシップを問うのか」というと、オーナーシップというのは、主体全体の所有を Lv6 の総体としたときに総体を構成する主体群の一つ一つであり、オーナーシップを求めることは「組織総体 Lv6 が完全であろうとする営みそのもの」なのである。
終わりに
本稿で説明した概念のコンセプトは
「主体という概念の再定義を通して人間活動という複雑系事象を捉え直すもの」
です。
(0) 定義:主体とは何か
(1) 主体の図形表現
(2) 総体
(3) 四角い主体
(4) 流れ
(5) 主体の因数分解
(6) 主体の素因子分解
(7) 主体の状態保存則
(8) 情報の構造結晶
(9) 構造結晶と主体の外観
(10) 所有
(11) オーナーシップ
(12) オーナーシップを問う意味
この先が実践ということになりますが、主体理論が最終的に目指す「解」は「総体に含まれるすべての主体を特異点化すること」にあります。
一般的な組織論に対して若干マッドサイエンティフィックな話も多く、日々強烈な賛同と猛反対を巻き起こしながら事業を推進しています。
いずれ実戦采配の話をするかもしれないし、しないかもしれません。
来年もいい年でありますように。
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